黒酢の壺畑で、熟成され続ける想いとは<後編>
坂元昭宏さん(坂元醸造社長)
坂元宏昭さん(坂元醸造 醸造技師長)
天野源之さん(天野エンザイム 代表取締役社長)

作ろうと思っても作れない。
それが、過去からの遺産。

こちらの黒酢の持つ力について、いろんな研究結果が寄せられているとのことなんですが、具体的にはどんなものが?

坂元社長

いちばん最初が、九州大学の藤野先生で。定期的に見ている外来の患者さんの検査結果が、あるとき予測した数字よりもかなりいい数値で驚いて。そのあとも毎回いい数字が出たらしく。「なんかあなたやっているんじゃないの?」と患者さんに聞いたら、「いや、実は最近、坂元の黒酢っていうのを飲み始めて」って話が出てきて。そこから、先生が関心持ってくださって、研究が始まったのです。“血液サラサラ”という言葉、今は当たり前に使われていますけれども。

その言葉、坂元醸造さんが始まりなんですね!

坂元社長

そうです。人の毛細血管って、1番細いところは5ミクロンぐらいしかないのですね。その中を直径8ミクロンくらいの赤血球が流れ、酸素や栄養分を運んでいます。健康な人ですと、赤血球がしなやかに形を変えて、酸素や栄養分をどんどん運んでいくのですが、ストレスや加齢でそのしなやかさがだんだん失われる。ところが、うちの黒酢を飲んだら、それが取り戻せるということがわかりました。 患者さん20人ぐらいの血液の通るスピードを測ったら、流れが悪い人ほど改善されてたんです。その論文をテレビ局の方がみて、番組で同じテストをしたら、全く同じ結果が出てですね。そこでできた言葉が、“血液サラサラ”。それから黒酢が注目されるようになって、いろんな共同研究が行われました。

それまでは、まさかそこまで健康にいいとは思ってませんでしたか?

坂元社長

いや、そこは昔から、うちの黒酢ってなんか体にいいよねって話は聞いていて。それが科学的に証明され始めた、ということですね。ただ、体にいいのはわかっても、どの物質がどう作用してるかってのは、いまだにわかっていないことがかなりあるんですよ。

そもそも何が作用しているかは、実はわかっていない?

坂元社長

それを今、一生懸命調べているところなんです。“黒酢”というインプットと、“効果”というアウトプットはあるのですけど。伝統製法からくるものであるのは間違いないのですが、微生物由来かもしれないですし、特定の物質ではなく、いろんなことが複合的に作用していって、という可能性もあります。それを探索していくのは楽しみでもあるのですけれど、大変な作業です。

大学との共同で研究していることは、他にもありますか?

坂元社長

今まで全然考えてこなかった分野で研究が始まったりしていますね。つい最近では工学部系の先生が黒酢に関心を持って、研究をスタートしてくれて。

工学部の先生が黒酢に!?

坂元社長

今までまったくなかったジャンルで、何かができる可能性があるんですよ。

ワクワクしますね!僕も最近、天野社長から、ここ10年でかつてなくバイオテクノロジーや発酵に注目が集まるようになった、というお話を聞いて。やっぱりそれは感じていらっしゃいますか?

坂元社長

はい、それこそ発酵(HAKKO)がアルファベットで、カラオケみたいになっていますよね。それは日本のすごい優位点だなと。これだけ温暖多湿の地域で、微生物の宝庫なので、非常に我々も期待していますね。自分たちが切り開いていかないといけない、とも思っております。

解明できていないことがあるのも含めて魅力ですよね。

坂元社長

やっぱり、こうやって私どもが活動できているのも、本当にもう、先人たちの残してくれた遺産のおかげだと思っているんです。過去からの遺産っていうのは作ろうと思って作れるものじゃないので、これをなんとかもう、大切に受け継いで、広げていくのが自分たちの使命だなと感じています。まだまだ種の段階のことが多いので、そこを解明して、今までなかったものを作っていきたい。

未来にどう渡せるか、ですよね。

坂元社長

一方で私たちは最後には、お客様の健康や美しさや、おいしいって言って頂ける喜びに結びつけたいので、研究のための研究ではあまり意味がないと思いますね。目的を持ちながら、自分たちで新しいマーケットを作っていきたいんです。

遺産でいうと、これから自然環境とどう共生して、次に残していくかっていうことが課題になっている中で、どのようなことを意識されていますか?

坂元社長

私どもは霧島市、福山町という町で生産をしているわけですから。当然地元とのつながりっていうのは、200年以上あるわけです。そこをもっともっと密接にして、自分たちだけじゃなくて地域全体で持続していきたいですね。社内的にも今、そういったプロジェクトを立ち上げていまして。まずは社内でできること、そして地域でできること。さらに今の時代はネット上でもつながれるわけですから。同じ想いをしているような会社とか人をつなぐ活動をどんどん広げていきたいです。

大切なのは、自分から気づく力。

天野社長

いやあ、すごい。いろんな手法を試みても、最終的に江戸時代のところに戻ってしまうって、まず、これがすごい。
やっぱり日本人って元々は観察する力があるんですよ。西洋だと理論が先にあって、その後現象がくるんですが。日本人って現象を丸ごと受け止めて、観察して。そこからまた選んで、後から理論がついてくる。例えば、西洋医学も体を要素に分けて縦割りに考えますが、東洋医学は、まるごと人間を見る。発酵はそれに近いんです。天野の研究所もそういうのが多いよね。

そうかも。酵素事業的には、東洋のやり方がいいですか?

天野社長

西洋東洋、どっちがいいっていうことじゃなくて、両方が良くて。組み合わせてね、うまくいくといいなと思っています。弊社の顧問の先生が、思い通りにならないのが、バイオの世界だっていう話をよくされるんです。それって子育てと一緒で、たいてい子どもは思い通りに育たない。でもそれを受け止めながら、そこから進めていく。それが日本のバイオだよって、そういう話をしているんです。今、それをね、思い出しながら伺っていました。

坂元技師長

はい、子育てをしているというと、やっぱりいろんな子供がいて。そこをやっぱり愛情を込めて、黒酢に仕上げたいと思っています。

天野社長

そうですね。その時に大事なのが、気づきの力。ちょっとの匂いの違いとかですね。でも、気づきって、当事者意識がないと絶対出てこないんですよね。

坂元社長

そうそう、見逃しちゃうんですね。

坂元技師長

そうですね、やっぱり先輩方から、いろんなことを教わることも大事なんですが、常に自分で気をつけて、しっかり見ていくっていうところが、大切かなと思います。自分の作業が他にあったとしても、いつ仕込んだのか、どのようになっているか、っていうのを、自分から気にかけるっていうのが、特に若い方にとっては大事。それで技量が変わってきますね。

天野社長

うちでもやっぱり、いい菌を見つける人っていうのは、気づく力のある人。あれ、不思議ですよね。それをなんとかAIでできないかって挑戦してるのですが、きっとやりきれないですよね。

気づきの力を育てたいと思ったら、どうしたらいいですか?

天野社長

視野を広げることでしょうね。せまいジャンルしか知らない人って、ひとつのものを見たときに、それ以外のことを思わないけれども、視野が広い人は、ひとつのことから、いろんなことを考えると思うんですよね。
だから、やっぱり関心の領域をとにかく広げるということは、絶対。だから今日ここにお邪魔して、すごくいろんなことを、五感で感じています。事前に相当勉強してきても、やっぱり実際に酢の匂いをこう嗅いでみた瞬間に、もう別世界なんですよね。

坂元技師長

壺畑の壺の上に、時々置かれている石がありましたよね?あれは、新人に壺の中の発酵状態を考えさせるためのものです。何か意味があるから置いてある。でも、何が起きているかは教えてくれない。自分の五感で、考えて、気づけよ、という…。

気づきをうながすためなんですね!おもしろいなあ。

坂元技師長

伝えるのも、難しいんです。ある程度の大まかな説明はできるのですけれども。やっぱり匂いとか、味とか含めて、言葉で伝えるっていうのは難しい。だから、自分で気づいてもらう。

ひとつのことにチャレンジではなく、
職人は常にチャレンジしている。

伝統を受け継ぐことと、新しい可能性に挑戦すること、どっちも両立して、どっちも掲げてらっしゃる。それを可能にするために心がけていることは?

坂元社長

それは一言で言うと、人を大切にするしかないですね。社員に頑張ってもらうしかないので(笑)、社内の勉強会も色々やったりはしていますけどね。五感の部分と、理論の部分と、相反する部分が多いですよね。でも両方とも必要で、バランスを取りながらやらないと成り立たない会社なので。

坂元技師長

坂元社長がおっしゃったように、人を大切にしていただいているので、わたしたちも安心して環境管理や発酵管理を進めることができます。

坂元社長

昔は職人は職人であんまりそういった数値の部分には関わっていなかったんですけれども。今はなるべく交流して、お互いに理解できるようにしています。昔は経験だけで終わっていましたが、今は五感だけじゃなくて、理屈もわかってきたっていうのが職人にとっても自信になっている面があると思いますし。

30年の中で、自分の中でこれはチャレンジだったな、と思うことは?

坂元技師長

そうですね、今までの中のチャレンジでいうと、常にチャレンジですね。

坂元社長

すごいね。

坂元技師長

職人の領域に関しては、常にチャレンジして成長していかないといけないので。何か一つこれがすごいチャレンジだったっていうよりも、レベルを上げていくために常にチャレンジしていかないといけないと思っています。

坂元社長

インタビューになるといいことを言うな。普段言わないようなことを(笑)

坂元技師長

結果が伴っているかはわからないですけど(笑)

天野社長

世界でね、活躍されるといいですよね。私が言うのも変ですけど、すごく楽しみです。いつも社員に言っているのは、日本的な良さを追求したいけれど、独りよがりになっちゃいけないと。だから、いいと思ったものを世界の市場の厳しい目に晒してみて、残ったものはきっといいものだから、それを磨き上げようと。そして世界の人が「え、それなに!?」と言ってくれるかどうかは、本当に、出してみないと分からないんです。

意外なものが、評価されたり、されなかったり。

天野社長

私たちも実は過去、何兆円の製薬会社の市場から、酵素の市場に絞ったんですよね。当時、日本の酵素市場が200億だったので、多くの社員は、こんな小さな市場に絞り込んで大丈夫ですかって言いました。でもだとしたら、世界に行くしかないじゃないかと、私は言って。結局、外の市場に出たのですね。

坂元社長

退路を断って、いかれた。

天野社長

退路を断つというとかっこいいですが、白旗をあげて、薬の業界から酵素の業界に行ったんです。そして世界の市場に出してみたら、全然、反応がないものもたくさんありました。そこから時を経て、世界的にニッチな物が残った。例えばヨーロッパの市場に持っていっても、ヨーロッパの酵素会社が持っているものは売れない。納期が長くなる日本からわざわざ買わないですよね。そうすると1ヶ月待ってでも買いたいもの、結果的にはオンリーワンのものだけが残りました。

勇気がいるけど、そこにしかないものが残って、つづいていく。

天野社長

そういう自分たちでは作れないものだと、ヨーロッパの人って評価してくれますね。たとえば、丹後ちりめんもネクタイとして活用されたり。西陣織をホテルの壁紙に使うんです。自分達では思いつかない活用のされ方もしますよね。

坂元社長

さっき天野社長ともお話ししていたんですが、残すためには、やめる決断というのが、すごく大事で。何でもかんでも残せばいいっていう訳ではない。
となったときに、うちとしては何を残して、何をやめるのか。まだまだ社内で話し合っていかないとですね。

残したいのは、物ではなく、想いや心。

坂元社長にとっては、未来に継続していきたいものって、なんでしょうか?

坂元社長

非常に難しいのですが…。でも、物を残すことじゃないと思うんですよね。恐らく黒酢という物質の中にある、黒酢を作るために活動している微生物であったりとか、あるいはその発酵の技術だったりとか。そっちが大切なんじゃないかと。とにかく私どもの本当の中心の中心っていうのは何か、っていうことをまだまだ話し合っていて、議論していかなければと思っています。

話し合える環境、いいですね…

坂元社長

でも、わたしとしてはやっぱり、物ではなくて、いちばん大事なのは、自分たちの心だと思っています。江戸時代から受け継いできた心。健康のために、お客様のために、という心は絶対に残したいと思っていて。そのあとに方法論や製法、どうやっていくかという話だと思うんです。

素敵です!!!社長の次に答えづらいかもしれないですけれども。坂元さんはずっと残したいと思っているものは?

坂元技師長

200年前から続く伝統製法を残していきたいとは思っているのですけれど、わたしもやっぱり、想いですね。しっかりと想いをいちばんに伝えていけたらな、と思っています。最終的にはお客様に、健康にいいとか、美味しいって思ってもらえるのが、やっぱりいちばんうれしくて。

想いって実は失われやすいですもんね…

天野社長

お話を聞いて、やっぱり200年以上ですから重みが違うなあと。日本の風土とか日本人の心を、わたしたちも残したていきたいと、改めて思いました。
本当に最近、世界中が、わかちあうのではなく、奪い合う文明になっていますが、もう限界ですよね。コロナの時でも、大変な時にこそ助け合わなきゃいけないのに、ワクチンの争奪戦で、すごく暗い気持ちになっちゃうんですけど、せめてサステナブルのところでね、次の世代のために、国を超えて何か協力できればいいのですが。

暮らしが持続できるかどうかは、人類共通の課題ですもんね…

天野社長

文化庁元長官の近藤誠一さんが教えてくれたんですが、最後に大切なのは、共感性なんです。理論だとか正義はもう、それぞれにいっぱいあってぶつかりあってしまうけど、共感は、主義主張を超えられる。そして共感性を養うのは、結局、文化とか芸術とかそういう世界だよって。それが私は本当に目から鱗だったんですけれども。

芸術も文化も、相手を想像する力を育てるために大事だっていうお話をされていましたね。今日聞いたお話だと、壺の中を想像すること、微生物の居心地を思いやることに近いなと思って。未知なもの、わからないものを想像する。

天野社長

うちの会社にもね、いるのですよ。微生物と話ができるんじゃないのかという人が。

坂元技師長

そのぐらい思いやって、会話できるくらいになれるように。しっかりとやっていきたいです。

でも坂元さんは、コントロールしようとか、押しつけようとか全然されてなさそうで、素敵です。ただただ、相手の声を聞いて。

坂元技師長

そうですね。微生物の手助けをしているつもりです。こっち側から仕掛けるとかではなくて、微生物の手助けをしてあげて。やっぱり子育てと一緒ですね。見守って、手をかけてあげて、成長していく。

天野社長

実際に毎日やっていらっしゃるから。重みがありますよね。私の言葉よりも。

壺畑って遮るものがないから、真夏にひと壺ひと壺、見守り続けるのは大変ですよね。

坂元社長

普段の作業環境は、適切な空調とか配慮してやっていますが、実際、陽当たりのいい場所にありますし、壺の照り返しもすごいですからね。

でもすごく、お肌が綺麗ですよね!

坂元技師長

それは、黒酢を飲んでいるからです(笑)

この世界のあらゆる場面で活動する酵素、その新たな可能性を求めて。
現在、さまざまな分野で活躍中の人々のもとを「酵素くん」と一緒に訪ね、お話をうかがうコーナーです。